梱包不備とFCR(貨物受領書)


貨物の輸出梱包は日本国内で行われますが、貨物事故は多くの場合海外の仕向地において確認されます。そして、仕向地の輸入者(Consigneeまたは、加入している貨物海上保険会社)によるサーベイ、国際輸送会社によるカウンターサーベイが行われることが通常です。


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梱包は国際間の通常の運送や荷役に耐えうる強度が要求されています。

壊れやすい貨物(易損品)の梱包を行う際に個々の貨物を紙や発泡スチロール等により包装しているか、錆び易い貨物に錆び止めを塗布しているか等、貨物の性質にあった荷造り前の下準備が荷主には求められています。

また、シッパーズ・パックによるコンテナ貨物では、コンテナ内の積み付けやショアリングの不備があった場合には、梱包やその準備が不十分であったとされることとなります。したがって、荷主としてはコンテナ内の積み付けやショアリングを適切、完全なものにしておく必要があります。

運送約款では梱包の不完全に起因する損害について運送人は免責とされていますし、貨物海上保険約款でも梱包の不完全に起因する損害については保険金が支払われないこととなっています。

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<運送人の立場>

貨物の輸出梱包を運送人が荷主から請け負っている場合(梱包を請け負った運送人が梱包作業を下請業者に委託する場合を含む)は、運送人には賠償義務(債務不履行責任)が発生します。

梱包不備が原因で貨物事故が発生し荷主の加入している貨物海上保険では保険金が支払われなかった場合には、荷主から運送人に対して賠償請求がなされます。また、保険金が支払われた場合でも、保険会社が運送人に対して代位求償がなされます。

梱包会社は通常、梱包作業のみを行っていて、国際輸送に関してはフロンティング会社になっていないケースが大半です。荷主は梱包業者と直接契約を結んでいないため、梱包業者に対して請求を行うには、不法行為責任(契約関係がなくても負う賠償責任)を追及することとなりますが、不法行為請求では問題となる行為を特定した上でどのような過失があったのかを荷主側で立証しなければなりません。

そこで、荷主としては、契約関係がある元請け会社に対して、不法行為よりも立証責任が軽い債務不履行責任(契約関係がある場合に負う賠償責任)を追及することが多いです。しかも運送書類の約款が規定する以前のサービス(国際輸送開始前)となりますので、運送人が荷主との間で標準取引条件などを締結していない場合には、責任制限を主張できず、運送人は荷主に対して貨物のインボイスバリュー全額の賠償責任を負う可能性もあります。



<荷主の立場>

①元請フォワーダー又は乙仲業者等経由にて依頼しているケース

海外の貨物保険会社等手配のサーベイのレポート内容を吟味して、元請企業として依頼先のフォワーダー又は乙仲業者等経由で債務不履行の賠償請求をします。

梱包会社と直接取引関係がない場合には、不法行為に基づく請求を行う必要がありますが、不法行為に基づく請求の場合、梱包業者の問題となる行為を特定した上で過失で訴えるには弁護士等の費用も掛かり、しかもその梱包会社の資産内容(会社規模等)も調査しなければならないため、手間・労力と費用が掛かります。

また、梱包作業を対して、海外において仕事の結果による不具合に起因する損害を補償する保険(*)がありません。

*国際輸送に関わる賠償保険の一部としての補償される保険はあります

②自社にて直接梱包会社に依頼しているケース

梱包不備に起因する損害は、商品自体の価格が高額な程、全損に近い損害となりえます。

特に注意が必要なのは、シッパーズ・パック(自社工場・倉庫等によるコンテナ詰め)で、コンテナ内の積み付けやショアリングに不備があった場合です。このような場合、梱包不備と認定され、貨物保険でも保険金が支払われないこととなります。また、運送契約においても梱包不備による損害については荷主は運送人に対して賠償請求ができないこととされています。万が一に備えて、梱包会社と損害賠償時の処理方法をあらかじめ取り決めておき、リスクの保有とリスク移転の方法を相互に準備しておきましょう。



<梱包会社の立場>

①海上貨物保険にて保険金が支払われた場合

荷主との直接梱包契約をしている場合、貨物保険会社から貴社に対して代位求償がなされる可能性があります。そのような事態に備えて、自社加入の賠償保険の確認が必要です。

元請け業者との間で梱包契約をしている場合、貨物保険会社は元請け会社であるフォワーダーや港湾業者に対して代位求償を行うことが多いです。しかし、梱包会社に直接請求がなされることもあります。そのような事態に備えて、自社加入の賠償保険の確認が必要です。

貴社としては、あらかじめ元請け会社に対してFCR(標準取引条件)を締結する事で、損害賠償時の処理方法をあらかじめ取り決めておき、リスクの保有とリスク移転の方法を相互に準備しておきましょう。



②上貨物保険にて保険金が支払われなかった場合

サーベイレポートにより、コンテナ内の積み付けやショアリングに不備があったのか、梱包自体に不備の原因があったのか、原因が判断されます。

梱包自体に不備があった場合には、荷主との直接取引を除いて、フォワーダーや港湾業者経由で損害賠償請求がされるのが一般的です。しかし、梱包会社に直接請求がなされることもあります。そのような事態に備えて、自社加入の賠償保険の確認が必要です。

荷主の立場が強いため、高額商品の場合は、商品代金は元より、未必利益やその再生産に関わる費用等の請求もされるケースが多いです。元請け会社との間でFCR(標準取引条件)を締結することで、元請け業者と損害賠償時の処理方法を前以て取り決めておき、リスクの保有(社内留保)とリスク移転(賠償保険等)の方法と負担割合等を相互に準備しておきましょう。



< FCR(標準取引条件)との関係 >

上記の様に運送書類(船荷証券・Sea Waybill・複合輸送証券等)に規定されているサービス以外の作業で発生した問題に対して、FCR(標準取引条件)に準じる旨の契約をしておくことで、運送人と荷主の間でスムースなサービスの提供と損害時の賠償請求処理が行われます。そのような賠償の場面では、FCR(標準取引条件)が損害処理を進める上で、効果を発揮します。